いつの間にか、私は主の傍にいるのが当たり前のように思い始めている。
以前と比べれば随分と三成様との会話も増えてきたと思うし、部屋にいても邪険に扱われない。
遠征はいつもだが、ちょっとした視察にも護衛兼側近のような形でほぼ連れて行ってもらえるし、
それなりに良い役割を頂く事もある。
「近々、秀吉様が視察に行かれる。お前も連れて行く、いいな?」
「はい、喜んでお供いたします」
会話が増えたとは言ってもこれぐらいしか話さないけど、
元々三成様はそんなにお供は連れないし、城にいても友人と仲良く談笑なんて事はほとんどしない人だ。
わざわざどうでもいい奴を傍に置くような人でもないし、むしろ邪魔だと思えばすぐ追い出してしまうだろう。
そんな三成様が私を臣下としてお認め下さっている。
少ない会話だけど、三成様にお傍にいることを許されていると感じる事ができるのは、素直に嬉しかった。
7・それぞれの義
城における日々の中で、おそらく私は主の色々な一面を垣間見る事ができたと思う。
まず三成様は生真面目だ。
義を貫き不義を許さぬ志は承知の事(そこが私が主と決めた一番の理由だし)。
性格が表れているのがわかるのは彼の自室、何度も足を運んだが乱れていた事は一度もない。
大量の書物があるはずなのにそれらは全て綺麗に分類整理されて、きっちりと積まれている。
そういえば以前、「暇ならばこれを整理しろ」と言われて処理済みの書類を分類していたら、
「違う、これはこちらだ」とか「その分類は一番上に置け」とか、
「これは第三項の案件が別紙の被害請求の内容との相互作用が……(長すぎてもう聞き取れない)」とか言い、
結局私から書類を取り上げて三成様が大半を終わらせてしまった。
挙げ句の果てに「碌に書類整理もできないのか」なんて言われてしまうのだから。
私は普通です、貴方が几帳面すぎるんですよ。
それから、その性格からか他人に対してもありのままの言葉を伝えてしまうらしい。
相手が不快にならないような言葉を選んで話すという事を三成様は全くしない。
良く言えば「正直」であるが、悪く言えば「他人の気持ちなどお構いなし」という事(あ、主の事を悪く言ってしまった……)
やはりそれが不快な人もいるようで、内心疎ましく思ってる人は少なくない。
『あの子は生きにくい子なの』というおねね様の言葉が今ならよくわかる。
もう少し良い言葉があるだろうに、それを選んで使う事ができないように思うし。
生真面目なのに、感情をうまく表に出せないが故誤解されやすいという事。
ああ、だけど彼はおねね様や秀吉様、親しい方といる時は全く別の顔をする。
おねね様に世話焼きのような事をされて、言葉は迷惑だなどと言っているが顔はそうでもない。
むしろ嫌じゃないんだけど、それを悟られたくなくて必死に繕っているような(でも実はバレバレ)
そんな姿を見ていたらもう笑ってしまうしかない。
思わず吹き出してしまったら三成様にもの凄い目で睨まれたから、それ以降はなんとか我慢している。
………私の主はものすごく不器用で、恥ずかしがり屋なのかもしれない。
「おお!綾葉も来ておったか!」
おねね様共々、秀吉様も何かにつけて私の事を気にかけてくれる。
ただの側近なだけである自分に。
「いや~綾葉が来ると華が違うな!パッと雰囲気が明るくなるようじゃ!」
「……恐縮にございます」
綾葉はどう対応していいかわからず、とりあえず軽く俯いた。
それに気を悪くしたようにも見えず、秀吉は隣にいる仏頂面の男に馬を寄せた。
「なあ、三成もそう思わんか?」
「私は特に」
「つまらんなぁ、普通は傍に女がいるってだけで気持ちが高揚するものだぞ?」
……それはたぶん秀吉様だけであって……三成様は、たぶんそうじゃないと思います……
呆れた顔をしている三成の代わりに、綾葉が心の中で呟いた。
「……秀吉様、おねね様に知れたらまた部屋を追い出されますよ」
「うっ……!あ、あれは寒かったなぁ……」
三成様の冷たい言葉と、秀吉様のハハハという空笑いが馬上の集団に虚しく響いた。
……秀吉様、何か思っていた人と違うなぁ……
秀吉様に最初にお目通りがかなったとき、まずそう思ったのを覚えている。
確かに、まだ小さかった私は実際に秀吉様を見た訳ではない。
攻めてきた敵の中にいた人物、だからその人も敵だと思っていた。
でも秀吉様は言っていた。
皆が笑って暮らせる天下を作る為には、この戦の世を終わらせなくてはいけないと。
結局は人を殺さずには作れぬ道だと。
だから、その人間を殺した罪を、残された家族の悲しみを、きちんと受け止める。
何もかも受け入れた上で、平和な世を作ると。
『ちゃんと終わらせて、ちゃんと恨まれる……それでいい』
いつだったか、ポツリと呟いたのを三成様と私は聞いた。
この日は視察先の城で泊まる事になった。
夜に宴があるらしく(そして女という理由で何故か私も参加しなくてはいけなくなった)、
それまではのんびり過ごしていいと部屋を与えられた。
とは言ったものの、やはり何もする事がない。
他人の城で稽古する訳にもいかず、かと言って護衛である自分が三成様を置いて、
城下に出かけるなんてのもできない。
そしてやはり私は半分日課になっているそれをしようと立ち上がった。
「茶の他にする事がないのか」
入室早々呆れ顔で言われてしまった。
いいじゃないですか好きでやってるんだし。
それに三成様だってそう言ってても邪険にせずちゃんとお茶飲んでくれるじゃないですか。
……なんて事は言えず、「すみません」とだけ謝ると近くに座った(やはりいつもの位置)。
「金ならあるだろう」
「私の役目は三成様の護衛ですから、それを差し置いて城下になど行けません」
「別にもう何処にも出て行かぬ。好きに過ごしてしていいと言ったはずだ」
「ですから好きな事しています」
「…………」
呆れたような目で睨み付けてくる(別に三成様は睨んでいる訳じゃないけど)主に、
一歩も引かない私に対して何やら困ったような変な顔でじっと見られた。
しばらくしてまた不機嫌顔になった三成様は(別に三成様は不機嫌な訳じゃない)
ふいっと興味をなくしたように書面に視線を戻した。
「……変な奴だな、お前」
片手には、私の淹れた湯呑みを持ちながら。
私は、三成様の鷲色の後ろ髪をぼんやり眺めながら。
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秀吉様が出張ってるだぎゃー。
無双の秀吉様は好きです。
次回あたりからそろそろ歴史が動きます。